ここ数年、魚に寄生する「アニサキス」による食中毒やアナフィラキシーショックの被害件数が増えています。
今までに自分で釣った真鯛(マダイ)を数多く捌いていますが、私は真鯛に寄生しているアニサキスを見たことがありません。
ただ単純に、捌く際に内臓をあまり確認しないで捨ているから見かけないのか?
天然の真鯛は、そもそもアニサキスが寄生していないのか・・・という疑問が!?
そこで今回は、真鯛にもアニサキスは寄生しているのか?
寄生していない場合は、どうして寄生しないのか?
寄生している場合は、もしそのアニサキスを食べてしまったらどんな症状になり治療法はどうすれば良いのか?を調べてみました。
アニサキスってどうして魚に寄生するの?
①アニサキスは寄生虫の仲間で、クジラ・イルカ・シャチ・スナメリなどの海洋ほ乳類のお腹の中で成虫になり産卵します。
②産卵後の卵は、フンに混じり海洋ほ乳類の体外に排出されます。
③海中に漂うアニサキスの卵は、オキアミに食べられてアニサキスは幼虫に成長します。
④アニサキスが寄生したアキアミを魚が捕食します。(マサバ・カツオ・キンメダイなど…)
魚ではアニサキスは成虫になって産卵できないため、主に内臓部分にとどまり終宿主(成虫になれる宿主)である海洋ほ乳類に捕食されるとを待っている状態となります。
アニサキスが寄生している割合の多い魚は、マサバ・カツオ・キンメダイ・ホッケ・シロサケなどですが、これらの魚は、海洋ほ乳類が多く生息する海域でアニサキスが寄生したオキアミを食べるためだと考えられています。
アニサキスの種類
アニサキスは10種類に分類されていますが、主に日本で食べられている魚に寄生する種類は次の3種類です。
①アニサキスⅠ型 学名「Anisakis simplex」
②アニサキスⅡ型 学名「Anisakis physeteris」
③シュードテラノバ 学名「Psudoterranova decipiens」
この中で、人間に寄生すると食中毒やアナフィラキシーショックの原因でもっとも多いのが①アニサキスⅠ型となります。
アニサキスⅠ型は、さらに3種類に分類されます。
○アニサキス・ピグレフィー
△アニサキス・シンプレックス・センス・ストリク
□アニサキス・シンプレックスC
※この3種類の分類は、見た目では判断できず遺伝子レベルでの検査が必要!
日本海側で取れるマサバに寄生する8割以上が、○アニサキス・ピグレフィーが寄生。
太平洋側で取れるマサバに寄生する8割以上が、△アニサキス・シンプレックス・センス・ストリクトが寄生。
このことから、海域により寄生するアニサキスの種類が異なると推測!
○アニサキス・ピグレフィーは、魚の内臓にとどまりますが、△アニサキス・シンプレックス・センス・ストリクトは魚の筋肉部位(刺身の部分)にかなり高い確立で移行します。
日本国内でアニサキス感染者100名より摘出したアニサキスの99%が△アニサキス・シンプレックス・センス・ストリクトだったため、、アニサキスの種類の違いによる症状の違いもあるのではないかと考えられています。
アニサキスこのポイントだけ覚えておけばOK
アニサキスについて簡単にまとめると、アニサキスⅠ型の「アニサキス・シンプレックス・センス・ストリクト」って種類はかなりヤバイ!
アニサキスⅠ型の「アニサキス・シンプレックス・センス・ストリクト」は、刺身に入り込むので気付かずに食べる確立が高くなる。
アニサキスⅠ型の「アニサキス・シンプレックス・センス・ストリクト」を人間の体内に入ると、アニサキス症になるから危険。
他の種類のアニサキスは、刺身に入りにくいので食べる可能性は低い。
他の種類のアニサキスを人間の体内に入っても、もしかしたら何も症状が出ないケースや軽度の場合もあり大丈夫かもしれない。
マサバに限っていえば、高知県から青森県までの太平洋側で水揚げされるマサバは、身の中にもアニサキスが移行している可能性が高いので刺身では食べない方がイイ。
長崎県から石川県まで日本海側で水揚げされるマサバは、刺身で食べても比較的安全。
天然真鯛にアニサキスが寄生する割合と種類
データー1
アニサキス魚種別寄生状況「90魚種・750匹」
真鯛13匹を検査した結果は、寄生した真鯛は3匹・寄生数92匹・全てアニサキスⅠ型
※「アニサキス・シンプレックス・センス・ストリクト」の検出はなし!
4.3%の割合でアニサキスが寄生!
データー2
魚種別アニサキス検出状況(平成24-28年度)「113魚種1718匹」
真鯛37匹を検査した結果は、寄生した真鯛は7匹・寄生数108匹・全てアニサキスⅠ型
5.2%の割合でアニサキスが寄生!
データー3
筋肉部位におけるアニサキス検出状況(平成24-28年度)「28魚種648匹」
真鯛37匹中、内臓部分でアニサキスを検出3匹
1.2%の割合でアニサキスが内臓部分に寄生!
真鯛26匹中、筋肉部位でアニサキスを検出0匹
筋肉部分に移行しているアニサキスの割合は0%
データー4
産地別寄生状況「30産地調査・瀬戸内海4県抜粋」
広島県・岡山県データーなし
愛媛県20匹魚体を検査した結果は、アニキス検体数0匹
香川県2匹魚体を検査した結果は、アニキス検体数0匹
データー数は少ないが、海洋ほ乳類の数が大西洋・日本海に比べて少ないためアニサキスが寄生している魚の数も少ないのではないかと考えられている。
天然真鯛のアニサキスこのポイントだけ覚えておけばOK
天然真鯛100匹中、5匹程度はアニサキスが内臓に寄生している。
ヤバイ種類の「アニサキス・シンプレックス・センス・ストリクト」は真鯛から検出されていないので、刺身部分にはアニサキスがいる可能性は低い。
もし真鯛に寄生したアニサキスを食べても、何も症状が出ない可能性もある。
愛媛県産・兵庫県産の天然マダイは、アニサキスが寄生する割合は低い!
天然真鯛のアニサキスを気にする必要はないが、新鮮なうちに内臓を取り水で洗い流すとアニキス症に掛るリスクは限りなく0になる。
養殖マダイにアニサキスが寄生する割合や対策方法
養殖マダイのエサは、主に人工飼料のモイストペレットを使っています。
原材料は、生餌、魚粉、魚油の混合などで半生タイプですが、ペレットを作る工程で熱処理や冷凍処理を行っています。
そのエサを食べ成長する養殖マダイは、アニサキスが寄生する確立は極めて低いです。
もちろん海での養殖なので、100%アニサキスが寄生しないとは言い切れませんが、はま寿司やくら寿司の大手回転寿司では、ほとんどの魚を一度冷凍さしアニサキスを死滅させる対策を取っていますが、養殖魚のマダイ・ハマチは冷凍せずそのまま生で提供しています。
従って養殖真鯛にアニサキスはいない!
アニサキスが人間の体内に入るとどんな症状になるの?
「アニサキス・シンプレックス・センス・ストリクト」が人間の体内に入ると、胃アニサキス症、腸アニサキス症、消化管外アニサキス症、アニサキスアレルギーが発症します。
胃アニサキス症
病院を受診される方の9割が、この胃アニサキス症です。
アニサキスが人間な体内に入ると、数時間~数十時間後に上腹部の強い痛み、嘔気・嘔吐などを起こすのが急性アニサキス症。
比較的症状は軽く、上腹部に弱い痛みや違和感が継続するのが慢性アニサキス症と分かれます。
これは、人それぞれ免疫反応の違いにもよりますが、アニサキスが噛みつくことによる痛みではなく、アレルギー反応の一環で疼痛を誘発するのではないかと考えられています。
腸アニサキス症
腸にアニサキスが移動するとアレルギー反応やアニサキスが噛みつくことによるり腹痛、嘔気・嘔吐などを起こします。
稀に、腸に穴を開けてしまったり、腸閉塞を引き起こしたりすることがあります。
消化管外アニサキス症
ごく稀に、消化管からお腹の中に出てアニサキスが寄生することがあります。
アニサキスアレルギー
蕁麻疹(じんましん)などのアレルギー症状がみられることがあります。重症の場合は、血圧が低下したり、呼吸状態が悪くなったりするなどアナフィラキシー症状を起こします。
アニサキスの治療方法は
「上腹部が痛む」
「昨日食べたサバの刺身が…」
「アニサキスかも」と思ったら、一刻も早く内視鏡治療のできる病院を受診しましょう!
アニサキスは人間の体内では生きられないので、約2~3週間で自然に死滅するとされていますが、アニサキスが胃に停滞している初期の段階で、内視鏡を使い直接取り除くのがもっとも効果的な治療方法です。
アニサキスを取り除けば痛みもすぐに治まりますし、初期段階で治療することで腸アニサキス症・消化管外アニサキス症に発展するリスクも少なくなります。
直接アニサキスを死滅させる薬剤はなく、抗アレルギー薬・疼痛を緩和する薬での治療となります。
アニサキスには正露丸って本当
「正露丸」の主な主成分は、木クレオソートでアニサキスの疼痛を緩和する特許を取っています。
病院が開いていない時間帯に、正露丸が手元にあるなら胃の激痛を和らげるみたいです。
しかし「正露丸」の成分はアニサキスの動きが弱まるだけで、アニサキスが死亡する訳ではありません。
服用したからといって安心は禁物!
念のためにも内視鏡治療のできる病院を受診しましょう。
2023年加筆
と思っていましたが近年の研究結果により、どうやら正露丸でアニサキスが死亡するみたい。
詳しくは⇒『アニサキスには正露丸が常識になってきた!正露丸と胃の消化液でアニサキスが分解』の最後に記載しています。
アニサキスの予防方法
アニサキスは-20℃以下で24時間以上冷凍する死滅します。(-8℃以下でも時間を掛けると死滅するので家庭用冷蔵庫でもOK)
加熱処理なら、60度で1分・70度なら即死滅します。
従って、アニサキスが心配ならイカなら冷凍、マサバなら刺身では食べずしゃぶしゃぶで食べるのが無難!
ちなみに、よく噛んで食べるとアニサキスを噛み切って死滅するので有効とされていますが、アニサキスは硬くて噛み切れません。
しかし、よく噛んで食べることは元々腸内環境にも優しくて良いことですし、口の中で違和感を感じてアニサキスを発見できる確立も高まるので有効です。
アニサキスが寄生している魚を刺身で食べる方法
サバ・カツオなどアニサキスが寄生している確立が高い魚を刺身で食べる場合は、基本的に自分で釣った魚を自分で捌いて自己責任で食べるのが大前提!
これらの魚を刺身で食べる際に、アニサキス症になるリスクを減らす方法は
①新鮮な間に内臓を取り除く
「アニサキス・シンプレックス・センス・ストリクト」だけが刺身部分に入り込むのか、その他のアニサキスも魚が死亡したあと身に移るのか解明されていませんが、釣ったその場で締めて血抜きを行い内臓を素早く取り除くことでアニサキス症のリスクを減らせる。
関連記事→釣ったその場で血抜きと内臓を洗えるポンプ
②三枚におろし上身しか刺身で食べない。下身は火を加えた調理法しゃぶしゃぶなどにして食べる。
アニサキスが身に移っている場合の多くは、内臓周りの腹部分です。上身には、ほとんどアニサキスは移りません。
関連記事→魚を捌く包丁の選び方おすすめのステンレス包丁について
③上身を目視と触手によって最終確認してから刺身にする。
より安全に食べるために、最終確認を行いましょう!
最後に
真鯛にアニサキスはいるのか?と疑問を持っただけなのですが、今回アニサキスについて勉強すると知らないことが多くて驚き!
冒頭で、私は真鯛に寄生しているアニサキスを見たことがありませんと記載しましたが、統計でも瀬戸内海の天然真鯛はアニサキスがあまり寄生していないんですね!
しかし瀬戸内海「松山沖」でも、近年スナメリやクジラの目撃がチラホラ。
ゆくゆくは、瀬戸内の魚もアニサキスの寄生率が高くなるかもしれません。
明石や愛媛の真鯛が重宝されるのは、海流での身の締まりや捕食しているエサによる上品な身の味に加えて、潜在的に「安心感」があるのかもしれません。
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